陸前高田市保育所修了記念文集復刻

 

 陸前高田市保育所の中で、高田保育所・今泉保育所は津波で園舎も全て流失してしまいました。小友保育所と長部保育所は、園舎は被害が無かったものの地域の多くの家庭が被害を受けました。それらの保育所では、毎年担当保母さんが修了生のために記念文集を作って来られました。手作りの力作です。その思い出の写真、文集を見たいという人がおられると聞き、昨年6月から準備を進め、ようやく各保育所約20年分、合計60年分で1800冊の文集を復刻し保育所に贈呈しました。今後保育所を通じて希望の方に無料で配布されます。 
     

         贈呈式でのあいさつ (3月27日於高田保育所)
 2012年6月、保育所所長さんから「修了記念文集を復刻できないでしょうか」と相談を受けました。数冊の修了記念文集を見せて頂きました。その中には、子どもの溢れるような笑顔、将来なりたい仕事をたどたどしい覚えたばかりの字で書いた文章、お母さんが子どもの名前の由来を書いたものもありました。明るく元気な笑顔が文集に残り、担当の保母さんが思い出をたくさん詰めて時間を掛けて丁寧に作った文集でした。どのページを開いても、生き生きとした子どもの様子が伝わってきます。わたしは誰とも会ったことはありませんが、この文集の持つ意味を考えた時、涙が出そうになりました。
 18年前、阪神・淡路大震災の時、わたしはある仮設住宅に行きました。当時の仮設は4畳半に暗い電気、小さなちゃぶ台しかありませんでした。あまりのひどさに驚き、そのひどさを多くの人に伝えようと、ある方の部屋で写真を撮らせて頂きました。暗い部屋に座った男性の顔はあまり写らないように暗いままで撮りました。そしてその写真をその男性にも送りました。数ヶ月して再度その仮設に伺った時、その男性は病気で亡くなっていました。しかし周囲の人から「もらった写真をとても大事にしていた。火で全部焼けてしまって自分の持ち物はこれだけだから。」と大事に飾っていたと聞かされました。写りの悪い写真で申し訳なかったのですが、それでも写真の重要性をそこで感じていました。
 津波で被害を受けた高田保育所・今泉保育所は勿論ですが、地域の方々が被害を受けて、家庭にあった文集も流されてしまった方がおられると思い、小友保育所・長部保育所の修了文集も復刻しました。
 写真が一枚あれば、一枚の写真を見れば、すっとその時に戻ることが出来ます。写真によって記憶が呼び起こされて、当時の思い出が鮮やかによみがえってきます。写真にはそれだけの力があります。この文集を手にする方々が、思い出を取り戻し、こころの復興に役立つことができればと願っています。

 (立教大学コミュニティ福祉学部 松山 真)